新潟日報夕刊エッセイ「晴雨計」 第23回 小正月のまゆ玉

小正月のまゆ玉
新潟日報 2012.1.11 夕刊掲載

 中越地震発生4日後に、長岡の父のと
ころに向かう時のこと。新幹線は止まっ
ていたので、高速バスでとりあえず柏崎
へ向かいました。しかし、柏崎から長岡
まではタクシーしか手はありませんでし
た。行けるかなーと言いつつ、乗せてく
ださった運転手さん。余震が続く緊張の
道中でしたが、1時間ほどの会話は、小
正月の話にまで及びました。
 小正月とは、一年で最初の満月の日。
新年がよい年でありますようにと、いろ
いろにお願いする日で、新暦では1月15
日にあたります。「小豆粥」「鳥追い」
「嫁たたき」などの小正月行事がありま
すが、私が特に興味を持つのは、餅や団
子が大活躍の「餅花・まゆ玉」です。
 「餅花」は、柳などの枝に餅をつけ、
枝垂れる様子を、稔った稲穂に見立てる
もので、主に西日本に多く見られます。
新潟では、稲わらの芯に小さな餅をた
くさんつけたものを束ね、これを「餅花」
「イナボ」「稲の花」などと呼びますが、
他にも、粟穂・稗穂、野菜といった豊作
を願う作物を餅や団子でつくり、ミズキ
などの枝につけます。佐渡ならば、木や
紙でイカやサンマもつくります。
 それに加えて、宝船、鯛、小判など、
福を招くめでたいかたちを象った餅種製
の「まゆ玉(せんべい)」も飾ります。
 このさまざまなものをたわわに稔らせ
た枝を総称して「まゆ玉」「まい玉」
「作飾り」「祝い木」などと呼びます。
「まゆ玉」という言葉から、繭の豊作を
願うものだとされることもありますが、
枝に餅や団子をつけることを「田植え」、
下ろすことを「稲刈り」と呼んだことか
らも、少なくとも新潟では、米の豊作を
一番に祈る「米玉」とも言えそうです。
 「北越雪譜」には、縮商人ならば縮の
反物というように、自らの生業にちなん
だ雛形をつくり、その福を祈るものだと
あります。願いのかたちはそれぞれ。わ
が家流のまゆ玉、飾ってみませんか?
 さて、長岡までのタクシーの中、運転
手さんはまゆ玉のことを懐かしそうに話
されました。そこで、柏崎の廃業してし
まった宝山堂さんのまゆ玉せんべいのこ
とをご存じか聞いてみると、同級生がま
だ現物を持っているだろうから見せても
らったらと、ご紹介くださいました。そ
の時のまゆ玉は、こうした出会いとご厚
意により、今私の手元にあります。

廃絶した宝山堂さんのまゆ玉もさげて、柏崎で展示
新潟県を中心にまゆ玉・餅花については、画像をとりまぜ、
ざっと整理してあります。

第24回のテーマは「ちんころのおばあちゃん」

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