新潟日報夕刊エッセイ「晴雨計」 第22回 福茶と辻占

福茶と辻占
新潟日報 2013.1.4 夕刊掲載

 あけましておめでとうございます。紙
面でご挨拶できるなんて、とても光栄で
す。あと1か月おつきあいくださいね。
 皆さんはもう初詣に行かれましたか? 
私は、子供の頃、大晦日のうちに家を出
て、祖父母と弟と4人で「ななとこまい
り」に出かけました。近辺の社寺やお地
蔵さまなど7か所巡るうち、年が明け、
帰ってくると、すでに新年。私の一番の
楽しみは「お供物」集めでした。
 意外と思われるかもしれませんが、初
詣というのは、新しい行事です。旧暦で
考えれば元日は「朔」で新月。真っ暗な
夜で、外など出歩くものではなく、家の
中で静かに過ごすのが本来です。そして、
「望」の小正月に、まゆだま、鳥追いな
ど多くの行事をしていました。
 さて、最近まで魚沼地域には「正月に
辻占」という風習がありました。辻占と
は、占いのような言葉が書かれた紙や、
その紙が入った菓子をさします。
 この「正月に辻占」、日本海側のいく
つかの地域に残るのを確認しています。
 まずは長崎県・平戸です。元日の朝一
番に「福茶と辻占」をするという家庭が
まだ残るそうです。そして、辻占を訪ね
るうち、富山県・福光の旧家でも戦前く
らいまで、大晦日の仕事納め後に、使用
人と家族が集まり、「福茶と辻占」を楽
しんだという話を教えていただきました。
また、金沢から石川県南部では、儀礼的
意味はすでに忘れられていますが、「正
月に辻占」は今も盛んのようです。
 なぜ「正月に辻占」なのでしょう?
 江戸などの大都市では、江戸時代末期
から明治時代にかけて、辻占が日常的に
流行し、消費され、さまざまな媒体にも
記録されましたが、あっさりと姿を消し
ました。それは、行事や儀礼と結びつい
たものではなく、個人が気まぐれに楽し
む流行りものでしかなかったからのよう
です。
 それに対して、日本海側に点在する地
域では、辻占が新年の家庭行事に組み込
まれてきました。平戸では、年始客との
挨拶の際に、儀礼的に添える「手懸け
(盆)」に、洗米、松、橙、昆布、干し
柿などと一緒に乗せるようになっている
ことからも、辻占はあなどれません。 
 初詣の習慣がない頃、1年を占う楽し
みを、辻占が担ったのでしょうか? 民
間の智慧はなかなかに絶妙で、ウラはと
りにくいですが、引き続き探索中です。


平戸の辻占せんぺいにつては、
「いとおかし*平戸の辻占煎餅」
金沢など石川県の辻占菓子については、
「いとおかし*辻占」「加賀地方と魚沼地方の辻占煎餅」

また、正月と関係なく、江戸などで流行った辻占については、
「虎屋文庫展示より*錦絵の中の辻占菓子」

第23回のテーマは「小正月のまゆ玉」

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