新潟日報夕刊エッセイ「晴雨計」 第六回 おもいのほか

おもいのほか 
新潟日報 2012.9.7 夕刊掲載

 首都圏では、山形産の黄色い「もって
 のほか」も見かけますが、私はやはり紫
 の「おもいのほか」です。新潟の方なら、
 菊の話だとおわかりですよね。
 9月9日は重陽の節供。陰陽の陽(奇
数)の数字が重なるのは、とてもよいこ
とかと思いきや、よすぎるのはかえって
悪いということで、本来はお祓いの日で
す。3月は桃、5月は菖蒲・蓬、7月は
笹、9月は菊といったその時期に力を持
った植物の霊力で祓うのです。 
 そのため、重陽は菊の節供とも言われ
ます。菓子のデザインにも取り入れられ
て有名な「菊の被(き)せ綿」はご存じで
か? 前日菊の花に真綿を被せておき、
翌朝、花に降りた露と香気を真綿に吸い
取り、それで身を拭うと、延命、長寿を
さずかるというもの。穢れを「祓う」と
いう日本人が強く持つ感性に、ご利益的
なものが加わっているようです。
 今年、私は「菊姫」にご縁があるよう
です。菊姫と言っても、上杉景勝の奥さ
んではなく、7歳で亡くなったとされる
加賀藩主前田利家の娘のほうです。
 去年共著で出版した『お守り菓子』と
いう本に、美しい御紋菓(粉菓子のよう
な打ち菓子)を掲載させていただいたお
礼もあり、お正月に、近江・比叡山坂本
の西教寺をお訪ねしました。
 社務所で名宝展の図録を手に取ると、
こちらには前田菊姫の肖像画やお墓があ
るとわかりました。秀吉に養女に出され
た後、大津で早逝した菊姫。7歳の幼女
の肖像画は、この時代にあっては大変珍
しいそうです。白菊を手に、かたわらに
は、3つ重ねられた紙雛や犬張子などが
描かれ、可愛らしくも暗示的な印象。                 
 すると6月、今度は金沢にある西教寺
末寺の西方寺蔵の、同じ菊姫の肖像画が
初公開されたのです。ちょっとした偶然
が重なり、拝見することができました。
 さて、大津西教寺では、11月に「菊御
膳」がいただけるそうです。というのも、
こちらの坂本では、「坂本菊」という、
花びらが筒状になったとても珍しい食用
菊を栽培しているからなのです。「菊御
膳」はその黄色い坂本菊を使った菊づく
しのお料理だそうですから、一度味わっ
てみたいものですね。
 新暦の重陽の頃には、長岡にいる予定
 なのですが、「おもいのほか」にはまだ
 早いでしょうか?

冒頭に書いた山形の「もってのほか」も紫でした。黄色は別種のようです。訂正いたします。

やはり、新暦の重陽では、「おもいのほか」↓はまったく見かけずじまい。
「被せ綿」については、「いとおかし*重陽の菊の被せ綿」
前田菊姫についてと、西教寺蔵の肖像画は、こちらで。
西教寺菊御膳の記事と、坂本菊
西教寺の美しい御紋菓
西教寺の中興の祖、真盛上人に由来する「真盛豆」については、
「いとおかし*真盛豆」

第7回テーマは、「老いてなお美しく」

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