新潟日報夕刊エッセイ「晴雨計」 第十一回 宮沢賢治の詩を和菓子に 

宮沢賢治の詩を和菓子に
新潟日報 2012.10.12 夕刊掲載

 「それはね、電気菓子とおなじだよ。
そら、ぐるぐるぐるまはつてゐるだらう。
ザラメがみんな、ふはふはのお菓子にな
るねえ、だから火がよく燃えればいいん
だよ。」これは、宮沢賢治の「水仙月の
四日」にある文です。「電気菓子」とは、
わた飴のこと。青や赤に燃える星が空を
巡るうち、雪が降るようになることを、
わた飴ができる様子にたとえています。
賢治さんは、こんな風に菓子を比喩に使
うことが巧みです。また、菓子に置き換
えてみたくなる表現もたくさんあるので
す。
「何と云われても
わたくしはひかる水玉
つめたい雫
すきとおった雨つぶを
枝いっぱいにみてた
若い山ぐみの木なので
ある」
という詩は、和菓子「山ぐみの木」に。
もちろん、そのままを写しとるのではな
く、こんな風です。薄紫のねりきり餡を
粒餡の裾がのぞくようにかぶせ、細めの
山型にします。そこへ砂糖をたっぷり
んですきとおった錦玉羹のいく粒かをつ
け、抹茶をふりかけてできあがり。
 寒天のくぐもった透明感は、砂糖を加
るほどすきとおります。葛はとろんと
した透明感、氷餅(餅をフリーズドライ
にしたもの)は、砕き方で雪や霜、雲母
のような質感も出せるのです。
 そう、賢治さんの詩にはさまざまな鉱
が出てきます。それで、鉱物の先生を
お訪ねしたこともありました。するとそ
こには、お菓子のような鉱物標本がたく
さん。天河石(アマゾナイト)やテレビ
石、方解石。そして、イタリアのドロミ
テ渓谷のドロマイトという石は、まるで
桃いろの「きんとん」に見えたものです。
 私は賢治さんの詩を菓子に置き換える
とで、その言葉や心象を味わい、菓子
の製法や素材を勉強できました。
 そうして、和菓子作品の個展を開いた
時、「注文の多い料理店」の序の冒頭部
分を書いた墨の作品をつくりました。そ
の賢治さんの一文、ご賞味ください。
 「わたしたちは、氷砂糖をほしいくら
もたないでも、きれいにすきとほつた
風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光
をのむことができます」
 私たちにいつもふりそそがれている
「たまわりもの」。今はつくることから
離れていますが、つかまた、そぎおと
したかたちで表現できたらと思います。

きっかけは、宮沢賢治をとりあげるムック本のデザインを担当し、
現地取材に同行してからというもの、私のなかで、賢治さんの世界が、
和菓子のデザインと、どんどんリンクしていった。
陶器作家さんの作品と、コラボの自作の和菓子展にて 餡が乾いていますね。
DOLOMITE とさくら色きんとん
六本木にあったギャラルリー・アルシュにて 1991

氷餅については、

第十二回のテーマは「柱餅? 餅柱?」

コメント

人気の投稿