新潟日報夕刊エッセイ「晴雨計」 第十二回 餅柱? 柱餅?

餅柱? 柱餅?
新潟日報 2012.10.19 夕刊掲載

 お会式(えしき)の季節です。東京池
上本門寺などでは、日蓮聖人の命日であ
1013日に、他の日蓮宗寺院では日に
ちをずらして行われます。紙花を枝垂れ
桜のように飾った万燈のお練りは有名で
すが、本堂に造られる柱飾りも注目に値
します。
 その柱飾りは、「柱餅」とも「餅柱」
とも呼ばれます。造り方は、まず天井に
届くようなお会式の時だけの柱を立て、
その柱に沿って下から野菜や果物、そし
て餅などをはりつけるように積んでいき
ます。餅には色もつけられ、一番上に
花を挿し、大変美しく立派な柱です。飾
りかたは寺院により異なりますが、秋の
収穫を祝うかのようにも見えます。
 では、なぜ柱を建てるのでしょう?
 日本では、()は神が宿るとされ
てきました。神さまはひと柱、ふた柱と
数えます。諏訪の「御柱」も神木です。
 お会式の「餅柱」にも神さまが宿って
いそうです。とすれば、柱と一体になる
ように積み上げられた餅にも、霊力が宿
るでしょうから、祭の後に分けられる餅
は、ありがたさもひとしおでしょう。
 また、餅を積みあげる供物といえば、
京都本願寺などの「御華足」があり
が、長岡周辺で「おけそく」といえば、
お正月の「鏡餅」のことですよね。 
 長岡で思い出すのは、長岡藩の記録に
みえる小正月の「小豆粥柱餅」です。
この「柱餅」は、小正月の小豆粥に入れ
た餅のことのようですが、どのような意
味があったのか知りたいと思っています。
 明治時代の初めに、神社と寺が分けら
れてしまい、日本古来の信仰のかたちが
わかりにくくなってしまいました。しか
し、餅や団子などの供物を通して行事を
見ると、まだまだ古式を残すものに出会
え、いにしえの人々の手わざを身近に感
じることできます。 
 餅は、臼と杵、陰と陽を搗いてできる
聖なるもので、「鏡餅」は、神社や神棚
に祀られる「御神鏡」にも通じます。
 近江の小正月行事「オコナイ」では、
搗いた餅を丸枠に入れ、表面を平らに伸
して、巨大なお鏡をつくります。そこへ、
墨で薬師如来などの梵字(種字)を書き入
れる地域もあります。まるで、餅こそが
信仰の対象であるかのようです。
 それらの行事を通し、日本人が、神仏
を超えたイメージを柱や餅に託してきた
のだということを実感しています。

お会式は、10月13日の前夜から、日蓮聖人が亡くなった池上を目指して、
都内だけでなく、小田原あたりからもたくさんの講中が、万灯を仕立て、
練りこんでくるため、それらの地域の寺院では、お会式の日にちを
ずらして行うことになる。そのため、9月くらいから12月まで、あちこちで
お会式が行われている。
川崎市溝口・宗隆寺のお会式の日は10月21日。夜からが本番。
宗隆寺本堂内。「餅柱」には、三色の三角の餅が見える。餅の下にはみかんや野菜。
宗隆寺幼稚園の園児たちの万燈。
池上の本門寺そばの鬼子母神の「お会式桜」の造り花。買い求め、仏壇に飾ることができる。
日蓮聖人が亡くなった時、時ならぬ桜が咲いたといういわれから造られ、飾られている。
「富山市楡原の法華宗上行寺で12日、毎年恒例の餅柱作り」
http://www.toyama.hokkoku.co.jp/subpage/TT20111113711.htm

「広島・日通寺 お会式 はじめて餅柱を飾る」
http://www.hokkeshu.com/kyokutusin/kansai/H21_11_01_esiki.html

お会式は、日蓮宗だけの言い方ではない。
聖徳太子の命日もお会式といい、須弥山を象ったとされる「大山立」という
しんこの鳳凰が飛ぶように取り付けられた、多種多様なお供物のヤマが
立られる。
供物を積み上げる宗教民俗は、世界的に共通のものだと思う。

第十三回のテーマは「菓子と和菓子」

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