新潟日報夕刊エッセイ「晴雨計」 第24回 「ちんころ」のおばあちゃん

「ちんころ」のおばあちゃん
新潟日報 2012.18 夕刊掲載

 「ちんころ」は、子犬とか犬の子の
とだそうですが、新潟県内では、十日町
の節季市の縁起物、犬などのしんこ細工
の総称としてのほうが知られていますね。
1月に4回行われる節季市で、農家の手
づくりのわら細工や竹細工などに混じり、
いつの頃からか「ちんころ」が売られて
きました。福を招き、厄を祓うとされ、
節季市の人気者です。
 もともと越後には、江戸時代から、2
月朔日に米粉をこね、犬の子をつくる風
習がありました。その名残りで、近年ま
でつくる家もあったようですし、長岡や
柏崎周辺には、涅槃会の団子として、犬
の子をつくるお寺が意外に多いのです。
 五泉でも、十二支のしんこ細工が市で
売られていたことを知り、つくっていた
方をお訪ねしましたが、ご高齢のため、
お話を聞くことはかないませんでした。
 「ちんころ」を子供の頃からつくって
きた、十日町の関口光江さんに会いに行
き始めたのは10年前でした。
 関口家ではすでにつくることは辞めて
いたのですが、話ながらも、おばあちゃ
んの手は「こうやって、こう」と、自然
に動くのです。あー、しんこがあればな
ぁと思った私は、次に伺う時、自分でつ
くったしんこ生地を持参し、再現しても
らったこともありました。
 最初はつくり方に興味があったのです
が、何度か伺ねるうち、「ちんころ」を
はじめた先々代の仕事ぶりや、おばあち
ゃんの人生へと話題が広がりました。
「娘時代に、いつも自分のことを見てい
る男性がいたけど、一度も言葉を交わす
ことなく、自分は機織りの奉公に出てし
まい、それきりだった」など、おばあち
ゃんの人生のひとつひとつのエピソード
が、「ちんころ」に重なりました。
 そうするうち、大阪の絵師・川崎巨泉
の玩具絵の中に、昭和初期の関口家の
「ちんころ」を描いた「十日町団子細工」
という絵をみつけました。驚きでした。
それまでのおばあちゃんとのやりとりで、
少しずつできあがっていたイメージが、
第三者によって少しも違わず描かれてい
たのですから。それ以来、菓子という視
点なら、民間行事の一端を自分なりに記
録していけるし、そうしておかなくては
と思うようになりました。
市はまだ2回(20日・25)立ちます。
「ちんころ」で福を招きませんか?

この記事が出た後、おばあちゃんの娘さんが、久々に「ちんころ」を
つくってみたからと、くださいました。
「千之助」(関口家)の「ちんころ」は、市で売られることはないしろ、
江戸時代の風習を思わせるかのように、ご家族の中に生きています。
おばあちゃんのお孫さん、ひ孫さんも覚え、つくれられるそうです。
おばあちゃんの娘さんが再開された「ちんころ」
「かわら版*ちんころ」もご参照ください。

第25回、最終回のテーマは「越の国の天神さま」

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