新潟日報夕刊エッセイ「晴雨計」 第21回 お正月の切り紙

お正月の切り紙
新潟日報 2012.12.28 夕刊掲載

 いよいよ暮れも押し迫りました。29
は「ク(苦)餅をつく」と言って嫌われ
たため、今日28日は、餅搗きの最適日の
ようです。
 子供の頃、お餅屋さんから、絨毯のよ
うな大きなのし餅と鏡餅が届くと、のし
餅を切るのは、祖父の役でした。端を細
長く残して切るので、たくさんできる拍
子木形の餅が楽しみでした。昔は正月以
外に餅を食べることはあまりなかったの
で、暮れの切れ端三昧は格別でした。
 鏡餅は、めでたい図案が切り抜かれた
切り紙を敷いて飾りますね。この紙は
「はっちょう紙」「三宝紙」などと呼ば
れ、少し前までは、それぞれの地域には
切ることができる人がいて、たのんで切
ってもらったり、歳の市で買いました。
実は、家庭行事とはいえ、一般人が神さ
まを祀る切り紙を切ることが広く定着し
ているのは、新潟県の特徴のようです。
 私は、堀之内町(現魚沼市)で、松飾り
に垂らすようにさげた「きりさげ」とい
う切り紙に出会い、とても惹かれました。
切られる方のお宅で、型紙を見せていた
だいたことがありますが、長く使ううち、
型も少しあいまいになっていて、そこが
なんとも愛おしい! 誰かに評価される
ためでなく、つくるべきものをつくって
きただけという気負いのないつくり手の
気配が感じられ、よくぞこうして伝えて
きたものだと恐れ入るのです。
 能登には、やはり一般人が切る神棚用
の切り紙があり、親近感を持ちます。
「蓬莱(宝来)」と呼ばれていて、切り紙
だけでなく、書いたものもあるようです。
 そして、能登各地の夏のキリコ祭りに
は、文字や柄を切り抜いた和紙を貼っ
切子燈籠が神輿とともに練り歩きます。
これらキリコが練り歩く祭りの中でも、
大きな火を焚くことで有名な古社が、七
尾市能登島にある伊夜比咩神社です。現
地では、その火が越後の伊夜比古神に見
えるようにとか、男神がやって来る目印
になるように、などと言われています。
 皆さん、能登には弥彦の神さまの奥さ
まがいるようですよ。いや、越後にもい
るから、などと冷たいことを言わず、も
し初詣に弥彦さまへ行かれたなら、能登
の比咩さまのことも思い出してみましょ
う。もちろん弥彦の神さまは、忘れては
いらっしゃらないでしょうけど。
 では、どうぞよい年をお迎えください。


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