新潟日報夕刊エッセイ「晴雨計」 第18回 身上おこす釜おこし

身上おこす釜おこし
新潟日報 2012.12.7 夕刊掲載

 先週、南品川の旧東海道沿いにある千
躰荒神のお祭に行ってきました。
 このお祭の縁起もの「釜おこし」は、
昔のお釜のかたちをしていて、チャー
ミングで、とても珍しい「おこし」で
す。これをつくり、境内で売る黒沢加
代子さんに会いに行くようになって5
年になります。
 品川海雲寺の境内にある荒神堂は、
江戸時代から崇敬を集め、賑わいまし
た。その始まりは、佐賀鍋島藩の殿様
が、戦の神としてあがめる荒神を、天
草の乱を避け、江戸藩邸へ移したこと
からだそうです。江戸時代初期に、戦
の神とされた荒ぶる神は、江戸庶民の
年中行事にとけ込み、いつしか、どん
な願いもかなえる霊験あらたかな神と
なったようです。
 荒神さまは、竈の神さま、火の神さ
まとして、一般的には台所に祀ります。
釜は竈に通じ、竈はその家の財産(身
上)を意味しました。「竈を分ける」
とは、分家をすることだそうです。
 釜を「興す」を「おこし」にかけて、
縁起をかつぎ、「身上おこす、釜おこ
し」と唱えて売られてきましたが、い
つ頃からあったものかは、不明のよう
です。ただ、江戸の物売りにも、中国
の孝行話にちなんだ「二十四孝のお釜
おこし売り」がいたことから、かたち
はわかりませんが、縁起ものとしては
古いようです。
 黒沢さんはご自分を「縁日屋さん」
だとおっしゃいます。ご主人が早くに
亡くなり、そのあとを継がれました。
「釜おこし」は、20年ほど前、それま
でつくっていた人が辞めることになっ
た時、ご自分より背の高い「ほいろ」
や、お釜のかたちにするための木型な
ど、製造道具いっさいを引き取り、作
り方を伝授され、つくるようになった
のだそうです。なにより、おこし種
(お米をはぜたもの)と蜜を合わせる
作業は簡単ではなく、得手不得手もあ
るため、誰もができる作業ではないこ
とが、見学してみてわかりました。特
に、毎日やって熟練する職人技と違い、
年に1回だけの作業を継ぐことは、か
なりハードルが高いと言えます。
 実は、去年まで継いでもいいという
方がいらしたそうですが、結局は断念
されたとか。そこで、黒沢さんがもう
1回だけつくる決心をされたようです
が、それが最後になりそうです。作業
をみれば、よくぞ今までつくってきて
くださったと思うばかりです。


詳しくは、「いとおかし*千躰荒神さんの釜おこし」

第19回は、「サンタ~ルチア♪」

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