新潟日報夕刊エッセイ「晴雨計」 第七回 老いてなお美しく

老いてなお美しく 
新潟日報 2012.9.14 夕刊掲載

 「うば玉」という菓子をご存知の方は
どの程度いらっしゃるでしょうか? 小
豆こし餡を薄い求肥で包み、粉菓子の種
粉(砂糖と、炒る・焼くなどの熱処理し
た米粉を合わせたもの)をたっぷりまぶ
してある菓子です。新潟では、昭和40年
頃まで、冠婚葬祭などの式菓子によく使
われました。お祝いには紅白、不祝儀に
は挽き茶と白というように。
「うば玉」はその昔、藩主クラスの菓
子でした。平戸藩主松浦家に伝わる「百
菓之図」には絵入りで載ります。当時は
たいへん贅沢だった白砂糖をたっぷり使
うこの菓子が、以後民間に広く定着した
ことは、越後の特色といえます。
  「うば玉」は、「烏羽玉」「姥玉」な
の表記でも、記録に残ります。
「烏羽玉」とは、花が終わった後に、
く輝く玉となるヒオウギの実のこと。
やつやと美しいさまが好まれました。
 「姥」は、単に老女というだけでなく、
尊い女性への尊称でもあったと思います。
「山姥」「姥尊」「おんばさま」などは
信仰対象であり、時にはマリアさまを重
ねたこともありました。
 「姥」に対しては「尉(じょう)」や
「翁」ですが、高田には有名な「翁飴」
がありますね。「うば玉」に「翁飴」。
越後の菓子文化は深く、豊かです。庶民
にはとてつもなく贅沢で非日常の存在だ
った頃の菓子が今も現役。菓子文化を考
える時、長岡でこれらの菓子に親しんで
育ったことは、私にとって大きな宝でし
た。
 また、越後の「うば玉」には「千歳」
という別称もあります。旧加賀藩領では
「千歳」の名のほうで残り、品格ある菓
子となっています。この「千歳」を「せ
んざい」と読んでみると、お正月などに
演じられる能の演目である「翁」を思い
浮かべます。翁の面は、最初箱に入れら
れて舞台に登場しますが、この箱や翁は
また、長寿の象徴であった「浦島太郎」
とも重なるように感じています。
 現代では「姥」というと、「老」や
「醜」のイメージのほうにかたよりがち
です。しかし、命をさずけ、つかさどる
母なる存在、愛情を注いでくれるけれど、
厳しくもある存在に対して、人々は畏れ
かしこまりながらも、親しく、美しくさ
え感じていたのではないでしょうか。
 「うば玉」はそのお力をいただく「あ
やかり」の菓子なのかもしれません。

長岡・越之雪本舗大和屋製「うば玉」
「うば玉」については、「いとおかし」に長岡と弘前白河
「おかしなみちのく」に、二本松の「うば玉」の掲載あり。

新潟県阿賀野市(旧笹神村)の五頭山や、阿賀野川で結ばれる会津地方に
姥尊信仰が多くみられる。
姥は「おかめ」にもつながるようで、菓子には、「おかめ」を象ったものが多い。
その代表的なもののひとつが、小須戸の玄米落雁「おか免」だ。
玄米の風味が香ばしい菓子。
町で何軒もつくるところがあったようだが、今はたった2軒になった。
写真は五泉屋さん製。若い女性が引き継ごうと頑張っていらっしゃる。
私は、なぜおかめなのか、なぜ玄米なのか、知りたいと思っている。

第8回のテーマは「お彼岸団子の思い出」

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