新潟日報夕刊エッセイ「晴雨計」 第八回 お彼岸団子の思い出


お彼岸団子の思い出 
新潟日報 2012.9.21 夕刊掲載

 子どもの頃、お彼岸になると、お餅屋
さんのガラスケースに、経木に盛られた
紅白のお団子がたくさん並びました。そ
れを見ただけでわくわくした私。お餅屋
さんはなくなりましたが、その光景はい
まだに目に焼き付いています。そして、
彼岸の入りの日に、仏壇にお彼岸団子が
供えられると、カビが生えませんように
と、お団子に念を送るのでした。
 わが家では「ちゅうにんち」と言って
いた「中日」に、お団子は新しいものに
取り替えられました。すると、祖母が硬
くなったお団子のカビをこそげ落とし、
水に戻してからやわらかく煮て、甘辛い
タレをからめてくれました。ちょっぴり
カビくさかったけれど、大好きでした。
 「中日」は、昼夜の長さが同じ春分・
秋分にあたり、昼が最も長い夏至・夜が
最も長い冬至とともに、太陽暦の大きな
節目の日です。
 私の祖父は、日が長くなるとか、短く
なる様子を「毎日、畳の目ひと筋ずつ」
だと言っていました。それが正しいのか
どうかわかりませんが、古代人は、家を
建てると、家の南側の壁に穴を開け、そ
こからさしこむ朝日の一筋が、反対側の
壁にあたる位置を記録し、春分・夏至・
秋分・冬至を知っていたそうです。
 背くらべの柱の傷ならぬ、壁の傷は、
太陽の移動ラインです。そこへ種まきや
初雪などといったことばや絵を入れてい
けば、実用的であるうえ、素敵なアート
になりそうです。ちょっとやってみたく
なりませんか?
 陽(ひ)の光の変化で1年を知り、森
羅万象に神さまを感じて生活してきた日
本人にとって、真西に沈む太陽を阿弥陀
如来に見立てた浄土思想は、とてもしっ
くりくるものだったでしょう。「あみだ
くじ」のもとになった放射状に広がる阿
弥陀さまの光背の筋は、陽の光のありが
たさやあたたかさにも通じます。
 そうした感性がベースになり、日本独
自の仏教行事とされる、西方浄土に生ま
れ変わった先祖に思いを寄せる「彼岸会」
も生まれたのではないでしょうか。
 震災のとき、お位牌(いはい)や写真
を探し求める話がたくさん聞かれました。
私自身、仏壇に向かうと、祖父母や母
に話かけていることを再認識。お彼岸団
子をおやつに変えてくれた祖母はそこに
います。

「いとおかし*長岡のお彼岸団子」にお団子の写真あり。

第9回のテーマは「月の光に」

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